2008年7月4日金曜日

染料についてのお話(2)

ブログをご覧の皆さん、こんにちはっ。

Colour Labからお届けします。「染料についてのお話(1)」に続くお話です。

 前回は染料の大まかな種類について、そして素材の種類によって染料は変えなければならないということをお話ししました。素材によって使う染料が制限されてしまうので、素材についての知識は大事なものになります。
 繊維それぞれの特徴や歴史を紐解くと、大変な分量になるので割愛しますが――合成繊維であるナイロンは実は絹を人工的に作ろうとしたことによって生まれたのだとか、そういうこぼれ話もたくさんあります――色落ちについて今日はお話ししようと思います。

 さて、手芸や洋裁をされている方の中には、出来上がった作品を水洗いしたとき、色が泣いてしまって作品が汚れてしまった――という、経験をお持ちの方もおられるのではないでしょうか? あるいは、生地や糸が日に焼けてしまったり、色が薄く消えていったりと、そういうことを体験された方もおられるかもしれません。
 これらの問題は主に次の三つのいずれかが原因で発生します。
① 適切な染料を用いて染められなかった。
② 染色過程、及び後処理が適切に行われなかった。
③ そもそも色や質感を重視した商品であり、色落ちを考慮してつくられた商品ではなかった。

 ご自身で染めを行っておられる方には少し退屈かもしれませんが、少し詳しくお話ししたいと思います。まず、①について。
 これはそもそも、使用に耐えうる堅牢度を持ち合わせていない染料を使用することによって発生する問題です。具体的な例をあげてみましょう。
たとえば「ロクセリン」と呼ばれる染料があります。青味がかった非常に濃い赤(臙脂色)を発色する染料で、西陣では帯締染めによく使われてきた染料でした。この染料は絹を染めることからもお分かりいただけるように、酸性染料に区分されるのですが次のような長所と短所をもっています。
長所は「色が染まりやすく、そして抜きやすい」ということ。短所は「洗濯堅牢度、耐光堅牢度など、多くの堅牢度が一般的な酸性染料と比べ劣っている」ということ。はっきり書くなら、このロクセリンを用いて手芸用のナイロン素材を染めると、洗濯や、光にさらした時、色落ちがしやすいということです。これはこの染料が持つ基本的な性質なので、色落ちしないようにするのは非常に難しいものになります。適切な後処理を行えば多少の向上はみられますが、色落ちを気にするならこの染料を使わずに、はじめから違う染料を用いて染めたほうが早いでしょう。
色の濃淡によっても堅牢度は変化します。色の薄いものは洗濯してもあまり色が落ちているようにはみえないかもしれませんが(洗濯堅牢度で問題になることはあまりない)、その分、耐光堅牢度に問題が発生することが多くなります(日焼けなどによる問題が発生しやすくなる)。色が濃いものはその逆の問題が起こりやすくなります。
 ロクセリンの長所についても少し。
 一般に、「色が染まりやすく、抜きやすい」ということは、染め手にとっては染めなおしが非常に楽になるという利点をもつことになります。具体例をあげましょう。
 例えば、業者から色指定で絹糸を染めるよう依頼を受けたとします。普通、試験での色合わせののち、本染めを行うのですが、試験染めのデータで本染めを行ったとしても多少の色違いが発生します(これをロット段といいます)。
 多少のロット段も問題にならない場合もありますが、それが難しいときはその試験の色になるまで染めなおすことになります。もし、ここで色が落ちにくい染料を使用していた場合、色合わせは非常に難しいものとなり、場合によっては染めなおしのための糸を新しく用意しなければならないという、リスクも考えられます。
 ロクセリンなどの染料は主に「勘染め(呼び名の通り職人の「勘」で色合わせをする染め)」をするのには便利な染料と言えます。このように堅牢度があまり重視されない場合、ロクセリンのような染料も有効に使える場合もあります。

 「色落ち」は初期の染料選択である程度決まってしまうため、A.F.Eでは堅牢度の強い染料をベースに色を作っていますが、必ずしもそのような染料だけで色を作っているわけではありません。染料濃度が低く、色落ちする危険が低いと判断した場合はむしろ積極的に別な組み合わせを採用しております。それはなぜなのかと、個人的な見解を述べるさせていただけるのなら、
 優等生ばかりの染料で配合した色は、つまらない。
 と、思っております。染料にはいろいろな個性があります。洗濯には強いけど、光にはあんまり…という特徴をもつのもありますし、その逆もまたしかり。ほぼ完璧な染料だけれども摩擦堅牢度が絶望的なほど悪い、という残念賞な染料もあります。あるいは非常に多くの問題を抱えているけれど、その染料でなければ作れない色をもつ、トランプのジョーカーみたいな染料もありまし、無個性が逆に個性になってる染料や、足並みをそろえてくれない染料というものもあります。そういう染料は確かに扱いが難しいのですが、きちんと役割を与えてやると、なかなかどうして、面白い色になってくれます。大事なのは、染料を適切に使うことです。問題がおきないように染め手が工夫して染めればいいのですから。

ある意味、色落ちの原因に適切な染料を用いなかったというのは誤りで、適切に染料を選ばなかった染め手が本当の原因なのかもしれませんね。

長くなりそうなので今日はここまでにしたいと思います。
②、③については後日、お話ししたいと思います。長文失礼いたしました。

それでは、皆さん、次のブログでお会いしましょう。

遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

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