2008年7月9日水曜日

染料のお話(3)

ブログをご覧の皆様、こんばんはっ。

 前回に引き続き、今日もColour Labからお届けします。今日のお話は前回の「色落ち」についてのお話の続きです。

 さて、前回お話したのは、適切な染料を用いて染めないことが色落ちの理由の一つだということをお話ししました。一般に、濃度の濃い色を染める時は、洗濯堅牢度(洗濯したときに色が落ちない度合)が強い染料を用いる必要がありますし、逆に淡い色を染める時は耐光堅牢度(光を長時間あてたとき、色が落ちない度合)の強い染料を使用するのが望ましいと考えられます(色落ちを気にする場合)。最近、堅牢度を表記している商品もありますので、その時確認していただくのがいいと思うのですが、堅牢度は五段階評価で1が最も悪い数値で、5が最も良い数値とされております。「湿布摩擦堅牢度 2~3」 という表記もありますが、これはそのまま堅牢度が2と、3の間にあるということを表しています。
 ここでこぼれ話を一つすると、この堅牢度試験は機械的に測定されるのではなく、人の目によって検査されます。どういうことかというと、例えば洗濯堅牢度を試験するなら実際に洗濯して、試験品と一緒に入れておいた白布がどれだけ色落ちによって汚れるのかということを「目視」で評価することになります。もちろん、検査手順や薬剤などはきちんとした規定に基づいて行われるのですが、最終的な判断は検査人の「目」によります。一般に検査には複数立ち会いますので試験結果に対する彼らの評価の平均値が試験場の評価となります。
 評価の基準が人による「目視」であるため、同一の試験場ではともかく、異なった試験場で堅牢度試験検査を受けたとき、異なる評価が出てくることも考えられます(評価の甘い試験場と厳しい試験場があるため)。
 そのため、大手アパレルでは自社基準に基づいて堅牢度基準を取っていることも珍しくありません。さすがブランド品は隠れたところも手を抜かないなぁと、それを知った時は感心したものです。

 ……閑話休題。
 話を前回の続きに戻したいと思います。
 色落ちする理由ですが、前回の②で書いたように「適切な後処理を行わなかったときにも起こりえる」ということも考えられます。
 これを読まれて、「当前のことじゃない?」と思われる方もおられると思いますし、事実、当たり前のことなのです(おい…)。が、市販の商品を購入されて万一、水洗いをして色落ちが発生した場合、しかもどうしてもなんとかして色落ちを止めたい、と思われた場合、こちらで適切な後処理を行うことで、若干、色落ちが軽減する可能性が考えられなくもないので(ものすごく頼りない表現で申し訳ないですが…)、以下に対処方法などを書こうと思います。

 さて、まずここでお話しする素材は「綿」に限定したいと思います。もっとも一般的な繊維ですし、一番問題が発生しやすい繊維でもあるからです。加えていうなら「ポリエステル繊維」や「アクリル繊維」などで色落ちの問題が発生した場合、一般家庭の機材での色落ちのリカバリーはまず無理です。考えられません。もし、ポリエステルで色が落ちたという問題に直面された場合は諦めてください(ぇ。
 では綿での色落ちのお話。
 綿は一般的に反応染料か、または直接染料によって染められます。このうち問題が起こりやすいのは「直接染料」のほうになります。なぜ、直接染料が問題になりやすいのかというと、染料と綿との結合の力が弱いことに起因します。少し詳しくお話します。わかりやすくなるようにお話を簡単にするので正確性に欠きますがご了承ください。

 さて、染めるということを簡単に言うと「染料を繊維にくっつける」ということになります。
 綿の繊維構造はちょっと変わっていて、「染まるところ(非結晶部分)」と「染まらないところ(結晶部分)」に分かれていて、染料分子が「染まるところ」に入ってくれることで繊維は「染まり」ます。染色するに際して温度を上げるのは、この「染まるところ」へ染料がスムーズに入ってくれるよう、隙間を広げるためでもあります。直接染料も反応染料も、ここまでは同じなのですが、繊維と染料の結びつき方が異なります。反応染料は綿繊維との間で非常に強い結びつきをもつのに対して、直接染料は綿繊維とあまり強く結び付いてくれません(色落ちになる理由その①)。

 加えて、染料は水と結びつきやすく調整されています。染めを自身でされておられる方の中には疑問に思った方もおられるかもしれません。
 「どうして石油(油)から作られた化学染料が水に混ざるのか?」
 水と油。普通に考えると、油から作られた染料は水に混ざるのはおかしいように思います。
 結論を先に書くと、「洗剤」の役割を持つ要素が染料の中に混ぜられているからです。洗剤があれば油汚れも水にまざりますね。
 この「洗剤」の役割を果たす物質のおかげで染料は水に混ざってくれるのですが、いざ染め終わってしまえば、この染料と水を仲良くする物質は邪魔になってしまいます(色落ちになる理由②)。
 染まってしまったあと繊維にくっついた染料がまた水に溶けてもらったら困ります(色落ちになります)。
 
 もし染料が繊維に結びつく力よりも、水に溶けようとする力のほうが強かったなら、それはもう、ものすごく色落ちすることが考えられます。先に書いたように、直接染料と綿繊維の結びつきは弱いものです。色落ちしやすそうですね。
 では、どうすればいいのかというと、後処理として「Fix剤(色止め剤として最近は市販されています」を入れて繊維になじませます。このFix剤は染料と水が結びつくのを邪魔する効果を持ちます。色落ちは水と染料が結びつくことで起こりますので、このような後処理を行うことで、色落ちは軽減する可能性が考えられます。

 もし洗濯していて色落ちが起こったら、Fix剤を利用すれば色落ちもましになるかもしれません。

 
 ただし、Fix剤は万能なものではありません。色落ちするときは色落ちします。
 その理由は前回の①番に由来します。染料の基本的な性質ですので、後処理をきちんとされていても、濃色では洗濯などでの色落ちが見られる可能性は否定できません。また、Fix剤は万能なものではありません。Fix剤を使うことで、新しい問題が発生することもあるのです。例えば、
①  洗濯堅牢度は上がるのだけれど、耐光堅牢度は下がる。
②  やり直しがきかない…
③  色目が変わってしまう…
 一般的なFix剤は上の三つも問題を引き起こしやすくなります。
 淡色にもかかわらず、洗濯すると色落ちがする。それじゃ、Fix剤で色止めをすればいい……というわけにもなかなかいかないのです。水には強くなりますが、一般的に今度は光に弱くなりますから。
 ②のやり直しがきかないというのは、染め手のお話なのでここでは割愛します。
 ③の色目が変わるというのはそのまま。染料の種類によっては、Fix剤を使う前と後とで色目が変わります。この色が好きで買ったのにFix剤を使ったら色が少し変わってしまった、という可能性も考えられます。

 今回皆様に一番知っていただきたいことは
「色止めに万能な薬品は存在しない」
ということです。この薬品を使えば大丈夫、とかそういう魔法のような薬剤はありません。これは海外の薬品でも同じです。ここでも使用目的に合うよう、薬品を使うしかないと思います(洗濯するような作品じゃないなら、洗濯堅牢度には目をつむる…など)。

 前回の③のお話はまた次のブログでお話したいと思います。
 重ね重ね、長文失礼いたしました。それではまた次のブログで…。
 
遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

0 件のコメント: