2008年7月15日火曜日

祇園祭、屏風祭がはじまりましたー

 ブログをご覧の皆様、こんにちはっ。
 京都では祇園祭がはじまりました。去年はあいにくの大雨に見舞われたのですが、今年は無事にスタートを切れたようですね。先日はまだ宵々々山にもかかわらず、歩くのがしんどいほどの人の入りだったそうです。
 京都で育った私にとっても祇園祭はやはり楽しみなお祭りです。学生の時はそれはもう、口実をつくって遊びまわったものです。おそらく、市内で最も愛されているお祭りではないかな、と思います。
 
 さて、祇園祭。
 私も宵山に出かけようと思っていますが、もしかしたらこのブログをご覧の皆様の中にも、「行く予定です」という方もおられかもしれませんので、見どころを少しお話したいと思います。
 やはり、一番の見どころは山鉾だと思われておられる方が多いかもしれません。

 この写真は長刀鉾。「くじ取らず」として巡行の先頭を必ず行く鋒です。この鋒をご覧になりたい、と思われた方は四条烏丸へ。角の近くにありますのですぐにわかると思います。
 今年はさらに下水引(鋒を飾る刺繍布)が新調されてますので、特に一見の価値ありと思います。他に新調されている鋒や山は次の通り。
 「南観音山」の屋根下を飾る天水引、「淨妙山」の後懸、「太子山」の御神体衣装。

 食い気のほうがいい、というのもありだと思います。
 祇園祭りにはたくさんの屋台が出ておりますのでそれを見るだけでも私は楽しいのですが、今年は気になるメニューがあります。
 その名も「賀茂ナスバーガー」
 ……。
 ハンバーグの代わりに賀茂ナスを挟んでいるのでしょうか。
 ハンバーグに賀茂ナスを刻んで入れているのでしょうか。
 現物を見るまでなんとも言えませんが、とりあえず昨日見に行った人の話では、行列ができていたそうです。三条通り近辺で売りに出されていたそうです。ぜひ、食べてみたい一品です。というより、食べるために私も並んでみようと思います。

 やはり、雅なものが見たいとおっしゃる方もおられるかもしれません。
 山鉾もいいけれど、他に何かない? と思われた方は「屏風祭」をお勧めします。西陣界隈の商家や織屋が所蔵している屏風や襖絵、美術品などを一般に開放するという趣向が、いつの間にか「屏風祭」として知られているようですね。中には丁寧に説明してくれるところもありますので、なかなか見ごたえがあると思います。

 歩きやすい道についてのですが、四条通りは道幅が広いこともあって、先日では問題なく歩けたそうです。ただ、室町通りなどの縦筋の道は非常に混雑しているそうです。人の流れに沿うように歩くことをお勧めします。
 四条通だけでも「長刀鉾」、「函谷鉾」、「月鉾」、「郭巨山」、「四条傘山」を見ることができますので、人ごみはちょっと…という方もそちらだけでもどうでしょうか?

 今日はこのあたりで。
 それでは失礼いたしました。

Art Fiber Endo 商品企画室 / 遠藤染工場 Colour Lab

2008年7月9日水曜日

染料のお話(3)

ブログをご覧の皆様、こんばんはっ。

 前回に引き続き、今日もColour Labからお届けします。今日のお話は前回の「色落ち」についてのお話の続きです。

 さて、前回お話したのは、適切な染料を用いて染めないことが色落ちの理由の一つだということをお話ししました。一般に、濃度の濃い色を染める時は、洗濯堅牢度(洗濯したときに色が落ちない度合)が強い染料を用いる必要がありますし、逆に淡い色を染める時は耐光堅牢度(光を長時間あてたとき、色が落ちない度合)の強い染料を使用するのが望ましいと考えられます(色落ちを気にする場合)。最近、堅牢度を表記している商品もありますので、その時確認していただくのがいいと思うのですが、堅牢度は五段階評価で1が最も悪い数値で、5が最も良い数値とされております。「湿布摩擦堅牢度 2~3」 という表記もありますが、これはそのまま堅牢度が2と、3の間にあるということを表しています。
 ここでこぼれ話を一つすると、この堅牢度試験は機械的に測定されるのではなく、人の目によって検査されます。どういうことかというと、例えば洗濯堅牢度を試験するなら実際に洗濯して、試験品と一緒に入れておいた白布がどれだけ色落ちによって汚れるのかということを「目視」で評価することになります。もちろん、検査手順や薬剤などはきちんとした規定に基づいて行われるのですが、最終的な判断は検査人の「目」によります。一般に検査には複数立ち会いますので試験結果に対する彼らの評価の平均値が試験場の評価となります。
 評価の基準が人による「目視」であるため、同一の試験場ではともかく、異なった試験場で堅牢度試験検査を受けたとき、異なる評価が出てくることも考えられます(評価の甘い試験場と厳しい試験場があるため)。
 そのため、大手アパレルでは自社基準に基づいて堅牢度基準を取っていることも珍しくありません。さすがブランド品は隠れたところも手を抜かないなぁと、それを知った時は感心したものです。

 ……閑話休題。
 話を前回の続きに戻したいと思います。
 色落ちする理由ですが、前回の②で書いたように「適切な後処理を行わなかったときにも起こりえる」ということも考えられます。
 これを読まれて、「当前のことじゃない?」と思われる方もおられると思いますし、事実、当たり前のことなのです(おい…)。が、市販の商品を購入されて万一、水洗いをして色落ちが発生した場合、しかもどうしてもなんとかして色落ちを止めたい、と思われた場合、こちらで適切な後処理を行うことで、若干、色落ちが軽減する可能性が考えられなくもないので(ものすごく頼りない表現で申し訳ないですが…)、以下に対処方法などを書こうと思います。

 さて、まずここでお話しする素材は「綿」に限定したいと思います。もっとも一般的な繊維ですし、一番問題が発生しやすい繊維でもあるからです。加えていうなら「ポリエステル繊維」や「アクリル繊維」などで色落ちの問題が発生した場合、一般家庭の機材での色落ちのリカバリーはまず無理です。考えられません。もし、ポリエステルで色が落ちたという問題に直面された場合は諦めてください(ぇ。
 では綿での色落ちのお話。
 綿は一般的に反応染料か、または直接染料によって染められます。このうち問題が起こりやすいのは「直接染料」のほうになります。なぜ、直接染料が問題になりやすいのかというと、染料と綿との結合の力が弱いことに起因します。少し詳しくお話します。わかりやすくなるようにお話を簡単にするので正確性に欠きますがご了承ください。

 さて、染めるということを簡単に言うと「染料を繊維にくっつける」ということになります。
 綿の繊維構造はちょっと変わっていて、「染まるところ(非結晶部分)」と「染まらないところ(結晶部分)」に分かれていて、染料分子が「染まるところ」に入ってくれることで繊維は「染まり」ます。染色するに際して温度を上げるのは、この「染まるところ」へ染料がスムーズに入ってくれるよう、隙間を広げるためでもあります。直接染料も反応染料も、ここまでは同じなのですが、繊維と染料の結びつき方が異なります。反応染料は綿繊維との間で非常に強い結びつきをもつのに対して、直接染料は綿繊維とあまり強く結び付いてくれません(色落ちになる理由その①)。

 加えて、染料は水と結びつきやすく調整されています。染めを自身でされておられる方の中には疑問に思った方もおられるかもしれません。
 「どうして石油(油)から作られた化学染料が水に混ざるのか?」
 水と油。普通に考えると、油から作られた染料は水に混ざるのはおかしいように思います。
 結論を先に書くと、「洗剤」の役割を持つ要素が染料の中に混ぜられているからです。洗剤があれば油汚れも水にまざりますね。
 この「洗剤」の役割を果たす物質のおかげで染料は水に混ざってくれるのですが、いざ染め終わってしまえば、この染料と水を仲良くする物質は邪魔になってしまいます(色落ちになる理由②)。
 染まってしまったあと繊維にくっついた染料がまた水に溶けてもらったら困ります(色落ちになります)。
 
 もし染料が繊維に結びつく力よりも、水に溶けようとする力のほうが強かったなら、それはもう、ものすごく色落ちすることが考えられます。先に書いたように、直接染料と綿繊維の結びつきは弱いものです。色落ちしやすそうですね。
 では、どうすればいいのかというと、後処理として「Fix剤(色止め剤として最近は市販されています」を入れて繊維になじませます。このFix剤は染料と水が結びつくのを邪魔する効果を持ちます。色落ちは水と染料が結びつくことで起こりますので、このような後処理を行うことで、色落ちは軽減する可能性が考えられます。

 もし洗濯していて色落ちが起こったら、Fix剤を利用すれば色落ちもましになるかもしれません。

 
 ただし、Fix剤は万能なものではありません。色落ちするときは色落ちします。
 その理由は前回の①番に由来します。染料の基本的な性質ですので、後処理をきちんとされていても、濃色では洗濯などでの色落ちが見られる可能性は否定できません。また、Fix剤は万能なものではありません。Fix剤を使うことで、新しい問題が発生することもあるのです。例えば、
①  洗濯堅牢度は上がるのだけれど、耐光堅牢度は下がる。
②  やり直しがきかない…
③  色目が変わってしまう…
 一般的なFix剤は上の三つも問題を引き起こしやすくなります。
 淡色にもかかわらず、洗濯すると色落ちがする。それじゃ、Fix剤で色止めをすればいい……というわけにもなかなかいかないのです。水には強くなりますが、一般的に今度は光に弱くなりますから。
 ②のやり直しがきかないというのは、染め手のお話なのでここでは割愛します。
 ③の色目が変わるというのはそのまま。染料の種類によっては、Fix剤を使う前と後とで色目が変わります。この色が好きで買ったのにFix剤を使ったら色が少し変わってしまった、という可能性も考えられます。

 今回皆様に一番知っていただきたいことは
「色止めに万能な薬品は存在しない」
ということです。この薬品を使えば大丈夫、とかそういう魔法のような薬剤はありません。これは海外の薬品でも同じです。ここでも使用目的に合うよう、薬品を使うしかないと思います(洗濯するような作品じゃないなら、洗濯堅牢度には目をつむる…など)。

 前回の③のお話はまた次のブログでお話したいと思います。
 重ね重ね、長文失礼いたしました。それではまた次のブログで…。
 
遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2008年7月4日金曜日

染料についてのお話(2)

ブログをご覧の皆さん、こんにちはっ。

Colour Labからお届けします。「染料についてのお話(1)」に続くお話です。

 前回は染料の大まかな種類について、そして素材の種類によって染料は変えなければならないということをお話ししました。素材によって使う染料が制限されてしまうので、素材についての知識は大事なものになります。
 繊維それぞれの特徴や歴史を紐解くと、大変な分量になるので割愛しますが――合成繊維であるナイロンは実は絹を人工的に作ろうとしたことによって生まれたのだとか、そういうこぼれ話もたくさんあります――色落ちについて今日はお話ししようと思います。

 さて、手芸や洋裁をされている方の中には、出来上がった作品を水洗いしたとき、色が泣いてしまって作品が汚れてしまった――という、経験をお持ちの方もおられるのではないでしょうか? あるいは、生地や糸が日に焼けてしまったり、色が薄く消えていったりと、そういうことを体験された方もおられるかもしれません。
 これらの問題は主に次の三つのいずれかが原因で発生します。
① 適切な染料を用いて染められなかった。
② 染色過程、及び後処理が適切に行われなかった。
③ そもそも色や質感を重視した商品であり、色落ちを考慮してつくられた商品ではなかった。

 ご自身で染めを行っておられる方には少し退屈かもしれませんが、少し詳しくお話ししたいと思います。まず、①について。
 これはそもそも、使用に耐えうる堅牢度を持ち合わせていない染料を使用することによって発生する問題です。具体的な例をあげてみましょう。
たとえば「ロクセリン」と呼ばれる染料があります。青味がかった非常に濃い赤(臙脂色)を発色する染料で、西陣では帯締染めによく使われてきた染料でした。この染料は絹を染めることからもお分かりいただけるように、酸性染料に区分されるのですが次のような長所と短所をもっています。
長所は「色が染まりやすく、そして抜きやすい」ということ。短所は「洗濯堅牢度、耐光堅牢度など、多くの堅牢度が一般的な酸性染料と比べ劣っている」ということ。はっきり書くなら、このロクセリンを用いて手芸用のナイロン素材を染めると、洗濯や、光にさらした時、色落ちがしやすいということです。これはこの染料が持つ基本的な性質なので、色落ちしないようにするのは非常に難しいものになります。適切な後処理を行えば多少の向上はみられますが、色落ちを気にするならこの染料を使わずに、はじめから違う染料を用いて染めたほうが早いでしょう。
色の濃淡によっても堅牢度は変化します。色の薄いものは洗濯してもあまり色が落ちているようにはみえないかもしれませんが(洗濯堅牢度で問題になることはあまりない)、その分、耐光堅牢度に問題が発生することが多くなります(日焼けなどによる問題が発生しやすくなる)。色が濃いものはその逆の問題が起こりやすくなります。
 ロクセリンの長所についても少し。
 一般に、「色が染まりやすく、抜きやすい」ということは、染め手にとっては染めなおしが非常に楽になるという利点をもつことになります。具体例をあげましょう。
 例えば、業者から色指定で絹糸を染めるよう依頼を受けたとします。普通、試験での色合わせののち、本染めを行うのですが、試験染めのデータで本染めを行ったとしても多少の色違いが発生します(これをロット段といいます)。
 多少のロット段も問題にならない場合もありますが、それが難しいときはその試験の色になるまで染めなおすことになります。もし、ここで色が落ちにくい染料を使用していた場合、色合わせは非常に難しいものとなり、場合によっては染めなおしのための糸を新しく用意しなければならないという、リスクも考えられます。
 ロクセリンなどの染料は主に「勘染め(呼び名の通り職人の「勘」で色合わせをする染め)」をするのには便利な染料と言えます。このように堅牢度があまり重視されない場合、ロクセリンのような染料も有効に使える場合もあります。

 「色落ち」は初期の染料選択である程度決まってしまうため、A.F.Eでは堅牢度の強い染料をベースに色を作っていますが、必ずしもそのような染料だけで色を作っているわけではありません。染料濃度が低く、色落ちする危険が低いと判断した場合はむしろ積極的に別な組み合わせを採用しております。それはなぜなのかと、個人的な見解を述べるさせていただけるのなら、
 優等生ばかりの染料で配合した色は、つまらない。
 と、思っております。染料にはいろいろな個性があります。洗濯には強いけど、光にはあんまり…という特徴をもつのもありますし、その逆もまたしかり。ほぼ完璧な染料だけれども摩擦堅牢度が絶望的なほど悪い、という残念賞な染料もあります。あるいは非常に多くの問題を抱えているけれど、その染料でなければ作れない色をもつ、トランプのジョーカーみたいな染料もありまし、無個性が逆に個性になってる染料や、足並みをそろえてくれない染料というものもあります。そういう染料は確かに扱いが難しいのですが、きちんと役割を与えてやると、なかなかどうして、面白い色になってくれます。大事なのは、染料を適切に使うことです。問題がおきないように染め手が工夫して染めればいいのですから。

ある意味、色落ちの原因に適切な染料を用いなかったというのは誤りで、適切に染料を選ばなかった染め手が本当の原因なのかもしれませんね。

長くなりそうなので今日はここまでにしたいと思います。
②、③については後日、お話ししたいと思います。長文失礼いたしました。

それでは、皆さん、次のブログでお会いしましょう。

遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室