2009年9月24日木曜日

第十一回 色についてのあれこれ「退紅」

 ブログをご覧の皆さま、こんにちは。

 皆様、連休中はどこかへ行かれましたでしょうか? 私は連休中、山でボーッと葉っぱを見たり、琵琶湖へ出かけてボーっと空を見ていたりと非常に充実した休日を過ごしていました(マテ。いまだ連休気分が抜けません(ぉぃ。
 九月も下旬になると過ごしやすいですね。天気のいい日にはふらふらと出歩きたくなってしまいます。五月が若葉なら、秋は空。空の色が一番きれいなのはこの時期でしょう。色名でいうなら空色、東雲、茜色。曙、群青、そして天。昔の人もぼんやりと空を眺めていたことがあったのだと思います。空にちなんだ色というのは透明で澄んでいて、思った色に染めるのが難しいのですが、そこがまた気に入っていたりもします。

 さて、今日紹介させていただく色は「退紅」。
 空とは全く関係のない色です(ぇ。
 ……素直に前振りにちなんだ色を紹介しない、Colour Labから「退紅」についてお届けしますー。

「退紅(あらそめ、たいこう) : 別名 粗染(あらそめ) 褪紅(たいこう)」

 皆様は上の色見本を見てどう思われるでしょうか?色として見るなら一斤染よりもやや薄い、柔らかみのあるピンク色。桜色よりも濃く、一斤染の色よりも薄いこの色が退紅と呼ばれる古色です。人によって色の好みがあると思うので、好きな色か嫌いな色かは意見が分かれると思いますが、この色を見て、「下賤な色」と思われる方はおられないでしょう。が、大昔、この色はそういう意味をもつ色でした。

 前回の薄色の説明で、「身分によって着る色が制限される」という話をしました。これは奈良時代だけの話ではなく、平安の世でも同じようなことが行われていました。退紅の別名、褪紅は「褪せた紅」からとられたのでしょうが、この別名からもご想像いただけるように身分の低いものの衣服に用いられた色です。たとえば、雑用のために諸国から徴収された仕丁や雑役の服色とされましたし、下官の狩衣の色もまたこの色でした。驚いたことに、この色は着用する者の代名詞として使用されていました。身分や役柄ではなく、もちろん名前ですらない、「退紅」という色名が身分の低いものの呼び名であった、そういう時代があったということです(この場合、退紅はあらそめ、ではなく、「たいこう」と呼んだそうです)。

 昔の色の良し悪し、というものは染料が高価かどうかに大きく依存しているように思います。この退紅が下賤の色として扱われたのはその染め方が、紅花の絞り粕を用いたことが大きく関係しているのでしょう。色が卑しいから下賤な色、ということではありません。当然ながら。私はこの退紅をいい色だと思いますし、そういう感性をもつ人は平安の昔にも多かったはずです。

 鎌倉時代の春日権現験記絵巻には貴人もまた、日常のくつろいだ生活の中では下級色に区分されていた退紅なども着用しているさまが描かれています。このことからも退紅は当時の人に好かれていたのだと、そう思います。千年以上、色名が消えず伝えられてきたのですから。

 以上、色についてのあれこれ 「退紅」。

 ここまでにしたいと思います。お付き合いいただきありがとうございました。

 それでは次のブログでお会いしましょう。長文失礼しました。

2009年9月14日月曜日

第十回 色についてのあれこれ「黄蘗色」

 ブログをご覧の皆さまこんにちは。
 いつものようにColour Labからお届けします。前置きなくさくさく行きましょう。
 第十回「色についてのあれこれ」はじめたいと思いますー。

「黄蘗(きはだ)」

 古色についての本を紐解くと、読み方がわからない色名の出会うことがあります。振り仮名をうってくれているものは問題ないのですが、「読めるものなら読んでみろ」とばかりに、漢字だけの資料もあったりします。もちろん私はこの「黄蘗(きはだ)」を振り仮名なしに読むことはできなかったのですが(ぉぃ、読み方の難しい色のわりに、名前の由来は非常にシンプル。

 ミカン科の落葉広葉樹に「黄蘗」という木があります。……もう答えが出てるようなものですが、一応解説を続けます。この「黄蘗」がこの綺麗な黄色の染料のもとになります。この木の樹皮の内側にはコルク状の層があって、これを煎じます。その煎じた液を染液のようにもちいて、これに布や糸を浸すと、見本のようなやや緑味のある黄色に染まります。非常のお手軽です(ぇ。「黄蘗」からとれる染料で染めた色だから「黄蘗色」ということなのでしょう。この黄蘗の木から染液を取り出して染める手法は大陸から伝えられ、奈良時代でも染められていたものと思われます。 

 「黄蘗」は染料としてだけではなく薬用(健胃整腸剤、傷薬などの漢方薬)としても用いられました。加えて、「黄蘗」で染めたものは防虫の効果があるとされ、経典の書写のときには紙を事前に「黄蘗」で染めて使用されていました(このような「黄蘗」で染めた紙を黄蘗紙、または黄染紙といわれています)。

 さて、この黄蘗に限らず黄色系の色を染める時は器具をよく洗浄する必要があります。……もちろん他の色でも使用する器具の洗浄が必要なのは当たり前なのですが、黄色は特に他の系統の色が混じった際、大きく色が濁ってしまいます。わずかな汚れでもかなり目立ちますのでご注意を。

 染めるのは難しくないけれど、器具の洗浄が大変な面倒くさい色ですね。個人的な感想を言わせていただきますと。

 さて、色についてのあれこれ「黄蘗」。
 ここまでにしたいと思いますー。

 お付き合いいただきありがとうございました。次のブログでお会いしましょう。
 長文失礼しました。
遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室


 

2009年9月11日金曜日

第九回 色についてのあれこれ「薄色」

 ブログをご覧の皆さま、こんばんは。
 ちょっと広報から。

 第17回インターナショナル・キルトウィーク横浜がパシフィコ横浜で2009年11月12日(木)~14日(土)に開催されます。A.F.Eも去年参加させていただいたのですが、今年も無事参加させていただけることになりました。ブース番号はB-5で、出張販売もさせていただくことと思います。皆さま、ご都合があえば是非ご来店くださいませ。HPに出してないものも店頭に並ぶと思いますー。

 以上、広報でした。

 さて、前回に引き続き色についてのあれこれ。
 今日は「薄色」を紹介させていただきたいと思います。

「薄色(うすいろ) (別名:浅紫)」
 

 大昔、着衣の色がその人の身分を示す、という時代がありました。「冠位十二階」なんかは教科書にも記述されるのでご存知の方も多いと思います。そこでは、一番身分の高い大徳は濃紫の着衣が許されていました(冠位十二階に定められた身分と色については、不確かなものがあります。というのは、「日本書紀」に書かれた「冠位十二階」の記述には位階に対応する色というものが記述されていません。つまり、教科書で教わった徳は紫、仁は青、礼は赤、信は黄、義は白、智は黒、という色分けはあくまで「この組み合わせの可能性が高い」というものであって断定できるものではないそうです。が、ここでは通説通り、大徳は濃紫と記述させていただきます)。

 紫の染料の原料は古代では非常に希少でした。

 古代、紫の染料を得るには二つ手法があったのですが、双方難しいものだったようです。紫は紫草の根からとる方法、巻き貝から取り出す手法があるのですが、紫草は栽培がそもそも難しく、巻き貝からは一個あたり、ほんの少ししか取れないために紫の染料は高価にならざるをえませんでした。日本では巻き貝から紫の染料をとることはあまりされていませんでしたが、西洋ではある種の巻き貝が絶滅してしまうほどの乱獲が行われたそうです。なんでも貝紫の染料と黄金が同じ価値だったとか。

 それはともかく。紫色はその希少さゆえ、高貴な色として取り扱われたのでしょう。それは平安の時代になっても続くことになりました。

 平安時代にあっても紫は特別な色であり続けました。深紫(こきいろ)は禁色として取り扱わます。深紫のルビ、「こきいろ」は書き間違いではありません。深紫と書いて「こきいろ」です。「こいむらさき」とは言いません。色と言えば紫。そういう意識があったのかもしれません。この呼び名からもどれほど紫色がほかの色から別格視されていたのかうかがうことができます。

 「薄紫色」と書かずに「薄色」と書かれていることからもお分かりいただけるように、この「薄色」も特別な色でした。『延喜式』で定められた三段階の紫のうち最も浅い色であり、中紫に次ぐ上位の色でした。
 しかし、後に色が薄いことからやがて禁色からは別扱いになり、誰でも身につけることが許される「聴色(ゆるしいろ)」とされています。
 そのこともあってか、「源氏物語」、「枕草子」、「狭衣物語」、などこの色の装束について記述したものが多いですね。

 以上、色についてのあれこれ「薄色」。
 ここまでにしたいと思います。

 お付き合いいただきありがとうございました。
 次のブログでお会いしましょう。失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年9月7日月曜日

第八回 色についてのあれこれ 「鶸色」、「鶸萌黄」

ブログをご覧の皆さまこんばんは。

 京都でも夕暮れくらいから秋虫が鳴くようになりました。途絶えることなく「リーリー」と鳴る虫の音になんとなく耳を傾けながらColour Labからお届けします。第八回、色についてのあれこれ「鶸色」はじめたいと思いますー。

「鶸色(ひわいろ)」

 大陸から渡来する冬鳥に「鶸」がいます。この鶸色はこの鶸鳥の羽毛の色からとられたものなのですが、日本古色名の由来として鳥や毛皮の色などからとられるのは珍しいと言えるでしょう(余談になりますが、日本の和名の名前の由来は花や葉など、植物由来のものが多いのに対して、西洋では動物由来のものも多い傾向にあります。その理由は定かではありませんが、農耕民族であった日本人と狩猟民族であった西洋人との生活習慣の違いが色名に表れたのではないか、という話もあります)。

 鶸鳥は『枕草子』の中にも記述されているほど古来から知られている鳥なのですが、「鶸」という色名が定着したのは鎌倉時代になってから、というのが通説です(鎌倉時代の書物、『布衣記』が初出)。

 この鶸色は当時の日本人に愛された色の一つだったのかもしれません。「鶸色」から派生した色名が存在します。次にご紹介する「鶸萌黄」もその中のひとつ。次の色見本を見てみましょう。

「鶸萌黄(ひわもえぎ)」

 「鶸色」と「萌黄色」の中間にあることからこの色名がつけられたのでしょう。この名前が定着したのは江戸時代中期だと考えられています(江戸時代の染法書、『染物早指南』に鶸萌黄の染め方が書いてあること、また同時期の染見本帳にも鶸萌黄の名が記されていることから)。この色名のもととなったもう一つの色、「萌黄」はご想像の通り、この鶸萌黄より濃く、緑味の強い色になります。 以上、色についてのあれこれ「鶸色」、「鶸萌黄」でした。

 紫系と橙系の色がないようなので、次はそれらの色をご紹介させていただきたいと思います。

 それでは皆様、お付き合いいただきありがとうございました。次のブログでお会いしましょう。

 失礼しました。

 遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年9月3日木曜日

第七回 色についてのあれこれ「甕覗」

ブログをご覧の皆さま、こんばんは。

 今年は秋が早いのでしょうか。例年、十月くらいまでは残暑が続くのに、今年は夕暮れになるといい風が吹いてくれます。御所でジージーうるさかった蝉の声もすっかり消えてしまいました。少しなごり惜しくもありますね。ではColour Labから色についてのあれこれ「瓶覗」。はじめたいと思いますー。

「瓶覗(かめのぞき) :(別名 覗色)」

 さて、「瓶覗」。

 古色の中ではかなり有名な色名なのでご存知の方もおられるかもしれませんね。この色名が呼ばれ始めたのは江戸時代。藍染めが盛んにおこなわれるようになった江戸時代からのものと伝えられています。瓶覗きの名の由来は私の知る限り二説あります。ひとつは「藍瓶をちょっとのぞいたくらい、ほんの少し浸した程度に染めた色、であることから名付けられた(つまり以前にお話しした「藍白(白殺し)と「瓶覗」を同じものとして扱うということ)」という説。おそらくこちらのほうが説として有力なのですが、この説を採用してしまうと以前、ご紹介した「藍白」の立場がなくなってしまいますので、ここでは第2説のほうの色目を採用させていただきました。

 もう一つの説のほうは「瓶に張られた水に空の色が映ったような色調であることから、瓶に写った空を覗き見た色、そこから「瓶覗」」、と名付けられたという説です。色見本を見ていただければお分かりいただけると思いますが、前出の白藍色よりもはるかに濃い色になっています(ちなみに、1説のほうの瓶覗の色を採用したとすると、その色目は以前ご紹介した「白藍色」をほんの少し濃くした感じの色になります)。瓶覗の名前の由来となったこの2説、いずれが正しいのかは明らかではありません。先ほど述べたように第一説目のほうが有力だと思いますが(第二説のほうを取り上げている資料は非常に稀)ですが、ここではあえてこの色調で。私はひねくれているのでマイナーな話が好きなのです(マテ。

 とはいうものの、この色についてはちょっと手直しもするかもしれません。瓶覗きについての色見本をもう一度洗いなおしてみようと思います。藍白色に近づける気はありませんが、実際に瓶に水を入れて空を写してみたら、もう少し色調を抑えたほうがいいようにも思いましたので。……こだわるときりがない気もしますが……。

 いずれにせよ「瓶覗」。しゃれっ気のあるいい名前だと思います。色の名前に良し悪しはないのかもしれませんが、昔の日本人たちは想像力をかきたてるような色名をたくさん残しているように思います。海外の色名はなんというか……ストレートなのが多いんですよね……。それはまた後日。

 では色についてのあれこれ「瓶覗」。ここで終わりたいと思いますー。次の色は「鶸」、「唐紅」、「粗染」、「香色」、「薄色」の中のどれかにしたいと思います。

 それでは皆様、お付き合いいただきありがとうございました。

 次のブログでお会いしましょう。長文失礼いたしました。

遠藤染工場 Colur Lab / Art Fiber Endo 商品企画室