2009年2月17日火曜日

第四回 染めについてのあれこれ

ブログをご覧の皆様、こんばんは。
 京都は暖かくなったと思ったら急に雪が降りはじめたりと、わけのわからない天気が続いております。なんだこの中途半端な冬は。……それはともかく。
 あらためまして皆様こんばんは。今日はColour Labからお届けします。
 前々回の話で繊維の不純物について少しお話したのですが、今回はその続きになります。

 さて、前々回の話で、フィブロイン(絹質)とセリシン(絹膠質)について少し触れたと思います。そこで高品質な絹糸はフィブロインが必要でセリシンはいらないこと、けれど、絹糸に表情(セリシンを多めに残せばシャリ感のある糸に、全部取り除けば絹特有の光沢をもつ糸に)を持たせるためにセリシンをあえて残すこともあるということをお話ししました。
 天然繊維がもとからもっている不純物を「一次不純物」と便宜上いいますが、「不純物」と呼ばれていることからもわかるように、基本的にこの区分に分類されるものが残っていると染色するにあたって邪魔するので取り除く必要があります。事前に。徹底的に。あとかたもなく完璧に。
 染めるときには邪魔にしかならない天然繊維が持つ「色素」ですが、非っ常に稀なことですが、この「色素」があることでその糸の価値が跳ね上がることがあります。
 今日はそういうお話をしましょう。
 
 今回、焦点を当てるのは「一次不純物」に属する「色素」について。ちょっと遠回りの話になるかも知れませんがご容赦ください。
 さて、本題の前に少し天然繊維が元から持っている「色素」ですが、ちゃんとこれにも色の名前があります。「生成色」「亜麻色」などが有名ですね。天然繊維は基本的になんらかの色を最初からもっています。しかし、先ほど言いましたように、染めを行う際にこのような「繊維上の色素」は邪魔になります。想像してもらいたいのですが、たとえば亜麻色の糸から淡い桜色を染めることができるでしょうか? もしかしたら染まるかもしれませんが、なんか汚れた桜色になりそうです。染糸が白に近いほど、染めやすいというのはお分かりいただけると思います。だから染め前の繊維を漂白することは非常に重要な作業と言えるでしょう。
 けれども、もし染める前の生成りの色が非常に美しい色なら、染める必要はないかもしれません。このような生成りの状態で非常に美しい色をもつ糸は非常に稀少なのですが。
「生成り色の薄いベージュみたいな色がそんなに価値あるのですか?」
と、思われる方もおられるかもしれません。
 けれど、世の中には生成りの状態で変わった色をもつ糸というものが結構あります。余談になりますが、皆さんが想像される生成り色というのは、実は私たち染屋が見る生成り糸そのままの色と一致しないこともあります。皆さんがご覧になっている生成り色は、繊維を完全に漂白したのち、改めて「生成り色」に染め直しているものがほとんどだと思います。皆さんは「生成り色」を薄いベージュみたいな色という風に思われていると思います。これはもちろん間違いではありませんし多くの糸はそうなのですが、糸の種類によっては「生成り色」じゃない生成り糸、というものもあったりします。
 絹を例にあげてみましょう。
 蚕から白い繭がとれるのはご存じだと思いますが、蚕の種類や育つ環境によって繭の色が変わることがあります。たとえば中国原産の柞蚕(サクサンと読みます。また柞蚕糸は別名タッサーシルクとも呼ばれていますが)は淡褐色、または茶褐色の繭をつくりますし、インドのアッサム地方で生息するムガサンは黄色、黄褐色の繭を作ります。ムガサンはその色から「ゴールデンシルク」とも呼ばれることもあります。…もうちょっと、なんか、こう呼び方を捻ってもよかったのではないかとも思いますが…。
 「ゴールデンシルク」なんて名前が出てきたのでもうひとつ海外の変わった絹糸を挙げておきましょう。
 これは私も非常に興味があるのですが、黄褐色とか、黄色とかではなく、本当に黄金色そのもののように輝く繭も世の中にはあるそうです。この黄金の繭もヤママユガ科に属する、学名クリキュラ・トリフェネストラータという舌をかみそうな名前の蚕からできるのですが、この蚕は本当に黄色とかじゃなく、金色の繭をつくるそうです。インドネシアのジャワ島にいるらしいのですが、私も直にその繭を見たことがありません。一度、なんとかして見てみたいものです。
 さて、こういう煌びやかな黄金の繭も非常に興味深いものなのですが、なにもこういう珍しい繭をつくる蚕は海外だけではありません。日本原産の天蚕(テンサン)は緑色の美しい繭をつくります。昔から天蚕糸の光沢は優美で深く、肌触りも柔らかく「繊維のダイヤモンド」とも呼ばれるほど希少価値をもっていました。その稀少性のために高価です。どれくらい稀少かというと、天蚕のみで織った布の反数は年間で数十反くらいという稀少さ(うろ覚えで申し訳ありません。もしかしたら今はこれ以下の生産量にすぎないかもしれませんが、それくらい稀少なものです)。
 天蚕にせよ、黄金の繭にせよ、ムガサンにせよ、これらの絹は絹自身がもつ「色素」があるがために美しい色を発色しています。こういう糸を前にすると私たち染屋は完全に脇役になってしまうのですが、天然でこれほどいい色に出会えるというのもまた楽しいものです。もったいなくてとても漂白作業に入れません(マテ。というより、こういう糸はそのままで使ってほしいものですね。
 ……まぁ、これは染め屋がいう言葉じゃないのですが^^;。
 残すものと削るもの、いらないと思われていたものでも見方が変わればいいものになるというお話になっているということを祈りつつ。

 今日はここで筆をおきたいと思います。
 思いつくまま書いているので読みにくい箇所があるかもしれませんが、ご容赦ください^^; 
 では、皆さん、次のブログでまたお会いしましょう。
 長文失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab
 

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