2009年7月29日水曜日

第二回、色についてのあれこれ「桜色」

 あたかも時が止まったかのように、遅々として更新が滞っているのはなんで?
 と、周りから物言わぬ圧力にさらされております。隣に座っている偉い人、露骨に横で溜息をつかないでくださいお願いします(←はよ書け(A.F.E一同)

 さて、皆さんこんにちは。Colour Labからお届けします。本当に久しぶりの更新になってしまいました。
 前回更新が三月ですか……。これは、まぁ、なんといいますか春眠暁を覚えずといいましょうか。私にとって七月は春と同じということなのでしょうね(マテ。……冗談はともかく。

 もうしばらくしたらHPでもこの4か月の成果をご紹介させていただけると思うのですが、まずはちゃちゃっとほったらかしのことから手をつけていきたいと思います。

 第二回、色についてのあれこれ「桜」。はじめますー。

 「桜色」


 初めに紹介する色はこの色と決めていました。本当は桜の季節に合わせてご紹介させていただきたかったのですが、過去のことはもう振り返りません(開き直った)。春爛漫のころには、花見に行かれた方もたくさんいらっしゃたのではないでしょうか。
 日本人の桜好き、というのは今に始まったことではなく、江戸時代は勿論、遠くは平安時代にまでさかのぼります。平安時代当時の桜といえば、現在の「ソメイヨシノ」ではなく、「山桜」のですが、その淡い薄紅色は当時の人々をも虜にしました。この当時、日本人の服装といえば当然和装なのですが、桜の名前は重ねの色に頻繁に出てきます。
 重ねというのは何かというと、和装をされておられる方はご存じだと思いますが、着物の表裏の色を変えることによって色を表現する手法です。たとえば、表は白、裏に赤花という色の組み合わせを「桜の重ねの色」という風に表現します。赤花という色は……これもそのうち紹介するかもしれませんが、基本的には明るい赤色です。この赤花を白い生地越しに見ると、やや薄いピンク色に見えると思います。このように、裏の色を表の生地ごしに透かして色を見た時、見える色合いを重ねの色、という風に言います(説明が下手ですいません^^;)。
 現在に生きる私たちからすれば、こういう重ねの手法などをとらずに最初から桜色に染めた布でおしゃれしたらいいんじゃないの?、と思われるかもしれません。その方が早いように思いますし。しかし、染屋の立場から考えると、おそらく当時の染色技術では、淡色の染色は色が安定しなかったのではないかな、と想像してしまいます。色止めとか、そいう薬品が全く発達していなかった時代ですから……。桜色のような薄い色では太陽の光なんかで簡単に色が飛んでしまったのではないかなぁ、と。日本の伝統的な古色として、現在でもたくさんの色名が伝わっていますが、これらの伝統色の多くは基本的に中色から濃色の染色が多く、薄い色は濃い色に比べずっと数が少ないように思います。この「桜色」も「重ね」ではなく染め色で出てくるようになるのは平安時代から下ること数百年、江戸時代に入ってからだとも言われています(江戸中期、紺屋伊三郎染見本帳より)。

 つまり平安時代の人たちは、どーしても桜色を着物に加えたいという切実な思いから、重ねの色という着こなし方を考えついたのかもしれません。……すごい色へのこだわりです。そして文献をひも解くと彼らの桜色への情熱がものすごいものだったということを見て取れます。。例えば、上では桜の重ねの色は「表は白・裏は赤花」という風に書きましたが、別説が19も存在します(おそらく一つの重ねの色目でこれだけの説があるのは「桜」のみだと思います)。また、その別説というのもちょっと考えさせられるものでして。普通、桜を思い浮かべるとき、私たちはピンク色を思い浮かべると思います。だから裏に赤、表に白の重ねは容易に理解できるのですが、表に白、裏に二藍、を用いることで桜の重ねとする、という別説があります。二藍というのは中色ほどのややくすんだ紫のような色です。当然、紫に白を重ねてもピンク色には見えないでしょう。桜の色にはふさわしくないように思えます。しかし、もし日差しの強いとき桜の花が日陰に入っていたのなら、あるいは黄昏時に月が桜を照らしていたのなら、その花びらが紫に見えることは十分に考えられます。実際に染めてみるとわかるのですが、桜色を染めるには赤一系統の染料で染めても桜色にはなりません。隠し味に多少の黄系統の染料も入れますが、青系列の染料は必須なんです。この青味が光線の加減や強さによって、桜の色を薄紫にも変えてくれるのでしょう。その移ろいを当時の人は観察していて、だから桜の重ねに「表白、裏二藍」なんていう、組み合わせができたのだと思います。こういう別説が桜の重ねには19。群を抜いています。

  加えてこの桜色、「桜の重ね」とは別の重ねの色として、「樺桜」、「紅桜」、「白桜」、「松桜」、「花桜」、「薄花桜」、「桜萌黄」、「薄桜萌黄」、「桜重」、「葉桜」、「薄桜」などどんだけ桜が好きなんよ、というくらい「桜」にちなんだ重ねの色目があります。これらの重ね色にも多くの別説がありその組み合わせを考えると当時、いかに桜が特別なものだったのかと、想像するにやぶさかではありません。

 日本伝統古色の中で、桜色は紅染めの中で最も淡い色調をもつ色だとされています。事実、古色に分類される赤系統の色でこの桜色よりも薄い色はありません。……もちろん染色技術や染料の質が向上した現在、この桜色よりも薄い赤系の色というのは存在しますが桜色以上に知名度のある紅染めはないでしょう(横道にそれますが私の知る限りもっとも薄い赤系の色は「里桜」と名付けられた極薄の桜色です。あまりに赤みが薄すぎて一見すると白にしか見えない、染屋泣かせの色です。色が安定せず、染めるのが非常に困難。そのため、この色名は近い将来忘れ去られることでしょう)。
 桜色に対応する海外の色名は当然ピンクになるのでしょうが、その歴史は意外に浅いことが知られています。ピンクに代表される薄い赤系の色は近世にはいるまであくまでレッドのカテゴリーに分類されており、当時はピンクも赤も区別がされていなかったそうです。

 だからやっぱり、千年以上前からこの薄紅色に執着し続けているこの国の人にとって、今でも桜色は特別な色なのではないかな、と思うのです。これが夏にも関わらず「桜色」を色の紹介の一番初めに持ってきたかった理由だったり。

 ……やはり長くなってしまいました。

 以上、色についてのあれこれ「桜色」。終わりにしたいと思います。

 また次のブログでお会いしましょう。失礼しました。


遠藤染工場 Colour Lab / Art Fiber Endo 商品企画室

2009年3月7日土曜日

第一回 色についてのあれこれ

 ブログをご覧の皆さま、こんにちは。
 京都も3月に入ってようやく暖かくなってまいりました。御所の梅も見ごろを迎えております。もうすぐ桜ですねぇ…。今年はどこの桜を見に行こうかな、と雑誌をめくりつつ、Colour Labからお届けします。
 さて、タイトルにあるように「染めについてのあれこれ」の姉妹シリーズにあたるこの「色についてのあれこれ」。色の見方や色の名前、歴史などをお話ししたいなぁ、と思っています。「染めについてのあれこれ」よりは話の脱線が少なくなるように(「染めについてのあれこれ」読み返してみたのですが、半年過ぎて四話しか進んでない(しかも脱線が多い…)ことに愕然としましたので、今回はそうならないように……努力します(ぉ)。
 さて、色について。
 第一回目をはじめたいと思いますー。

 まず、基本からお話をしましょう。
 皆さんのまわりに無限に存在する「色」なのですが、もちろんそのすべてに「色の名前」があるわけではありません。現在、日本工業規格「物体色の色名」(JIS-Z8102)で定義されている色の名前には269色があります。
 「たったそれだけなの!?」
と、驚かれる方もおられると思うので、補足を加えますと、このJISが定義している色は「比較的知られている名前、あるいは知ってほしい名前」として取り上げたものにすぎません。JIS規格に入っていない色の名前のほうが圧倒的多いのが現状です。私が把握している色の名前は色の重複、亜種を含めれば「和名」だけで1000をはるかに超えます。これに世界の色の名前を加えたらいったいどれくらいの数になるのか、ちょっと溜息が出そうなほどです。
 なぜ、これらの色がJISに入れなかったのかというと、……たぶん、紛らわしかったのでしょう。
 色には基本的に境界線がありません。
 同時に、ピンポイントで色が指定されているわけでもありません。
 明るさはこれくらい、黄色はだいたいこれくらい、赤みはそこそこ、青は控えめに…。などで大まかにくくられた領域の色に名前をつけたにすぎないのです。当然、多すぎると色名のそれぞれの領域が重なってしまうことになります(だからいくつかの色は間引かれてしまいます)。
 
 では、JIS規格で指定されている色はピンポイントで定義されているのかというと、まったくそうではありません。
 現在、色に関するたくさんの本が出版されていますが、本によってJIS規格の色でさえも異なって表記されていることがあります。それは印刷のインクの問題ではなく、CMYBの数値から根本的に違っています。これはJIS規格の色であっても、ピンポイントで色指定をしているわけではなく、ある程度の範囲の色を示しているにすぎないことを示しています。

 では、色の名前ってなんなんでしょうか?
 見る人によって同じ名前でも色が違ってしまう、そんな色に名前をつけてもいいものなのでしょうか?
 と、私もつい最近まで悩んでいたのですが、きっとこれでいいのでしょう。
 ただ、いくら紛らわしいからといって、何百年も続いてきた色の名前をなかったことにするなんてもったいないので(というよりも、切り捨てていいものではないと私は思っています)、ここではそれらを一つ一つ紹介していこうと思います。もちろん、このシリーズで紹介するのは過去のいくつかの資料からA.F.Eが取捨したり、平均値をとったり、なんかこう、いろいろな試験をして染めた色なので、皆さんが知っている名前の色でも、皆さんの心にある「色」とはまた違った色のようになって紹介するかもしれません。
 けれどそれもご愛敬。
 こういう風に色を見る人もいるんだなぁ、と思っていただければ幸いです。
 では次回から、色についてのあれこれ、本編はじめたいと思いますー。

 今日はお知らせのみで。
 長文失礼しました。
 次のブログでお会いしましょう。

遠藤染工場 Colour Lab

2009年2月17日火曜日

第四回 染めについてのあれこれ

ブログをご覧の皆様、こんばんは。
 京都は暖かくなったと思ったら急に雪が降りはじめたりと、わけのわからない天気が続いております。なんだこの中途半端な冬は。……それはともかく。
 あらためまして皆様こんばんは。今日はColour Labからお届けします。
 前々回の話で繊維の不純物について少しお話したのですが、今回はその続きになります。

 さて、前々回の話で、フィブロイン(絹質)とセリシン(絹膠質)について少し触れたと思います。そこで高品質な絹糸はフィブロインが必要でセリシンはいらないこと、けれど、絹糸に表情(セリシンを多めに残せばシャリ感のある糸に、全部取り除けば絹特有の光沢をもつ糸に)を持たせるためにセリシンをあえて残すこともあるということをお話ししました。
 天然繊維がもとからもっている不純物を「一次不純物」と便宜上いいますが、「不純物」と呼ばれていることからもわかるように、基本的にこの区分に分類されるものが残っていると染色するにあたって邪魔するので取り除く必要があります。事前に。徹底的に。あとかたもなく完璧に。
 染めるときには邪魔にしかならない天然繊維が持つ「色素」ですが、非っ常に稀なことですが、この「色素」があることでその糸の価値が跳ね上がることがあります。
 今日はそういうお話をしましょう。
 
 今回、焦点を当てるのは「一次不純物」に属する「色素」について。ちょっと遠回りの話になるかも知れませんがご容赦ください。
 さて、本題の前に少し天然繊維が元から持っている「色素」ですが、ちゃんとこれにも色の名前があります。「生成色」「亜麻色」などが有名ですね。天然繊維は基本的になんらかの色を最初からもっています。しかし、先ほど言いましたように、染めを行う際にこのような「繊維上の色素」は邪魔になります。想像してもらいたいのですが、たとえば亜麻色の糸から淡い桜色を染めることができるでしょうか? もしかしたら染まるかもしれませんが、なんか汚れた桜色になりそうです。染糸が白に近いほど、染めやすいというのはお分かりいただけると思います。だから染め前の繊維を漂白することは非常に重要な作業と言えるでしょう。
 けれども、もし染める前の生成りの色が非常に美しい色なら、染める必要はないかもしれません。このような生成りの状態で非常に美しい色をもつ糸は非常に稀少なのですが。
「生成り色の薄いベージュみたいな色がそんなに価値あるのですか?」
と、思われる方もおられるかもしれません。
 けれど、世の中には生成りの状態で変わった色をもつ糸というものが結構あります。余談になりますが、皆さんが想像される生成り色というのは、実は私たち染屋が見る生成り糸そのままの色と一致しないこともあります。皆さんがご覧になっている生成り色は、繊維を完全に漂白したのち、改めて「生成り色」に染め直しているものがほとんどだと思います。皆さんは「生成り色」を薄いベージュみたいな色という風に思われていると思います。これはもちろん間違いではありませんし多くの糸はそうなのですが、糸の種類によっては「生成り色」じゃない生成り糸、というものもあったりします。
 絹を例にあげてみましょう。
 蚕から白い繭がとれるのはご存じだと思いますが、蚕の種類や育つ環境によって繭の色が変わることがあります。たとえば中国原産の柞蚕(サクサンと読みます。また柞蚕糸は別名タッサーシルクとも呼ばれていますが)は淡褐色、または茶褐色の繭をつくりますし、インドのアッサム地方で生息するムガサンは黄色、黄褐色の繭を作ります。ムガサンはその色から「ゴールデンシルク」とも呼ばれることもあります。…もうちょっと、なんか、こう呼び方を捻ってもよかったのではないかとも思いますが…。
 「ゴールデンシルク」なんて名前が出てきたのでもうひとつ海外の変わった絹糸を挙げておきましょう。
 これは私も非常に興味があるのですが、黄褐色とか、黄色とかではなく、本当に黄金色そのもののように輝く繭も世の中にはあるそうです。この黄金の繭もヤママユガ科に属する、学名クリキュラ・トリフェネストラータという舌をかみそうな名前の蚕からできるのですが、この蚕は本当に黄色とかじゃなく、金色の繭をつくるそうです。インドネシアのジャワ島にいるらしいのですが、私も直にその繭を見たことがありません。一度、なんとかして見てみたいものです。
 さて、こういう煌びやかな黄金の繭も非常に興味深いものなのですが、なにもこういう珍しい繭をつくる蚕は海外だけではありません。日本原産の天蚕(テンサン)は緑色の美しい繭をつくります。昔から天蚕糸の光沢は優美で深く、肌触りも柔らかく「繊維のダイヤモンド」とも呼ばれるほど希少価値をもっていました。その稀少性のために高価です。どれくらい稀少かというと、天蚕のみで織った布の反数は年間で数十反くらいという稀少さ(うろ覚えで申し訳ありません。もしかしたら今はこれ以下の生産量にすぎないかもしれませんが、それくらい稀少なものです)。
 天蚕にせよ、黄金の繭にせよ、ムガサンにせよ、これらの絹は絹自身がもつ「色素」があるがために美しい色を発色しています。こういう糸を前にすると私たち染屋は完全に脇役になってしまうのですが、天然でこれほどいい色に出会えるというのもまた楽しいものです。もったいなくてとても漂白作業に入れません(マテ。というより、こういう糸はそのままで使ってほしいものですね。
 ……まぁ、これは染め屋がいう言葉じゃないのですが^^;。
 残すものと削るもの、いらないと思われていたものでも見方が変わればいいものになるというお話になっているということを祈りつつ。

 今日はここで筆をおきたいと思います。
 思いつくまま書いているので読みにくい箇所があるかもしれませんが、ご容赦ください^^; 
 では、皆さん、次のブログでまたお会いしましょう。
 長文失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab
 

2009年2月11日水曜日

新商品「各種レースパーツ」のご案内です~

ブログをご覧の皆様、こんにちはっ。
今日はA.F.E企画室からのご案内です。

「各種レースパーツ」、葉っぱと花のネット販売はじめました。
まだ何色か新色を染めてますので、また増えていくと思います。
さて、この葉っぱ。
イベント用にぼかしに染めているものもありまして、そっちは手染めなのですが、
「これもネットに出していいですか?」
と染め現場に聞いたら、
「無理(^▽^」
と、染めのほうに笑顔で言われたので、ぼかし染めのほうはしばらく店舗限定品とさせていただきます(ぇ。こういうパーツぼかしみたいなものはたくさん作るのも難しいですし、同じものを作るのはもっと難しいということ。試験室にあるぼかし葉っぱも一枚一枚手染めですので全く同じものはないようです。ですから、なるべくパーツぼかし商品は、皆様の手にじかにとって見ていただいて選んでいただきたい、とのことです。中には作り手のかたの気にいっていただけるものもあるかもしれません。
企画室お勧め、新色ぼかし葉っぱはもうしばらくしたら店頭のほうに並ぶと思います。
単色染めも堅牢染めで頑固に染めていますので、色落ちしないいい商品になっていると思います。ぜひ一度お試しくださいませ。

新商品のご案内でした。
それでは、皆様、次のブログでお会いしましょう。失礼いたしました。

Art Fiber Endo 商品企画室

2009年2月6日金曜日

第三回、染めについてのあれこれ

 ブログをご覧の皆様、こんばんは。
 今日もColour Labからお届けいたします。奇跡だ(マテ。
 
 不純物の話について話そうかと思ったのですが、やはりロット段の話を終わらせてからにしたいと思います。ロット段が出る理由その3、染料によるロット段の話、はじめますー。
 染料とひとくくりにしていますが、染料には化学染料と、草木染めなどに使われるような天然染料に分けられます。蛍光染料という区分もありますが、これも化学染料なのでひとくくりにしましょう。
 天然染料はご存じのとおり、動物や植物から取り出されます。有名どころはアイ、アカネ、ベニバナなど。ほかにも色々あります。天然染料のいいところ、悪いところ上げればたくさんあるのですが、ロット段に関して言えば一つの共通点を持ちます。それは、天然由来であるため染料のロット段が大きく、別ロットでの色の再現性は化学染料よりも一般的に低いというものです。もちろん、熟練の職人の手によればロットの分かれた染料を使用しても色差は小さくなると思うのですが、普通の人が染めることを考えた場合、天然染料は化学染料よりもロット段による色のブレが大きくなるのは否定できないと思います。
 化学染料が発達した現在、普通の染屋は化学染料を使用しています。この種類の染料は化学的に合成されているため、天然染料よりもロット段が小さく、種類が非常に多いのが特徴です。また、色落ちがしにくい高堅牢度を保持した染料も多く、現在のアパレル業界での染色は化学染料がなければ成り立ちません。均質な染料を安定的に供給するという意味で、化学染料は最高の品質を持っていると思います。
 しかしながら、この化学染料でもロット段は発生します。
 たとえば、Aという染料について言いますと、生産ロット1495番の染料と1496番の染料との間には基準値からプラスマイナス3%(基準値から色が最大3%薄くなる、あるいは濃くなる)という無視できないロット段があります。これは私の体感からお話しているわけではなく、染料メーカー自体がそのように公表しているのですから、やはりロット段はあるのでしょう。
 以前お話ししたように、三原色が均等に入るような色合い(ベージュ、グレーなど)はわずかな染料投入量のぶれでも色が変わって見えてしまうのですから、ロット段による色のブレは無視できないレベルになってしまいます。
 もちろん、同ロットの染料を使用すればこういうことは考えなくてもいいのですが、たとえば定番色のような何年も続くような色については、やはりどうしてもどこかで染料のロットが変わってしまうことになります。その時は同じ染料を使用し、同じ染料%を採用したとしても色が揺れることもあるでしょう。
 手芸をされておられる皆さんの中には定番の刺繍糸のはずなのに、色がまったく変わってしまっている、という経験をされた方もおられるかもしれません。これもロット段だと思われるのですが、この場合はもしかしたら染料そのものが変わっている可能性もあります。
 定番色というのは何年、時には何十年も続く商品です。
 その間に使用していた染料が廃番になってしまったりすることもあったりします。当然、違う染料で元の色に近づける作業をするのですが、それでも再現しきれない場合などがあるのかもしれません。染料が変わると演色性の問題が必ず発生しますからね……(この演色性という言葉、どうか覚えておいてほしいです。後日、演色性について詳しく説明したいと思います。これは色を見る上で最も重要なものにも関わらず、業界においてすら軽視されているというかなり難儀な問題を説明するのに必要なので)。
 というわけで。
 ロット段が起こる理由、なんとなくわかっていただけたでしょうか?
 繊維の性質、染料のロット、それから人の手による不確実性。ほかの条件はすべて同じにして、使用する染色機械が変わるだけで色は変わってしまいます。それほどまでに色というものはすごく微妙。
 だから、本当は必要な分を必要なだけ染めて使うのが一番いいのです。必要な量を見極めるのは難しいかもしれませんが、本当はそれが一番。……という話は、染屋の本分としてどうなのよ、と思わないでもないのですが。

今日はここまでにしたいと思います。
皆様、次のブログでお会いしましょう。失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab

2009年2月3日火曜日

第二回 染めについてのあれこれ

9月30日からのご無沙汰です。Colour Labからお届けいたします……。
……サボっていたわけではないですよ(イイワケヨクナイ。
気を取り直して、染めについてのあれこれ。第二回、はじめます~。

 さて前回、ロット段とは「全く同じ染めを再現することができないために発生する色違い」というところで話が終わっていたと思います。今回はそれの続きです。
さて、同じ染めを再現できない理由は人間のせいだけではありません。染料や素材がロット段の原因になることもあります。
 絹、綿などの天然繊維は糸の状態になるまでに多くの工程を経ることもあり、ブレが発生しやすくなります。絹糸について詳しく見ていきましょう。ちょっと横文字がでてきますが「あぁ、謎の言葉だな」と、聞き流していただいて結構です(マテ。

 さて、絹糸の原料となる生糸は
 フィブロイン(66.7%)、セリシン(20.5%)、水分(11.0%)、以下、ロウ・脂質、灰分、色素で構成されています。たとえば上質の着物などに使われる絹糸として利用できるのはフィブロイン(絹質)のみで、残りのものは不純物で使えません。最初からこういう不純物がなければ便利なのですが、この不純物は生糸固有のものなのでどうにもなりません。生糸に限らず天然繊維は大なり小なり不純物を含みます(セリシンは生糸固有)。このように素材そのものに最初から含まれる不純物を一次不純物といいますが、化学繊維が天然繊維に比べてロット段が生じにくいのは最初からこの一次不純物を含んでいないことも理由に挙げられます。
 ちょっと話を脱線します。一次不純物が悪者のような言い方をしていますが、実はそうとも言えません。たとえば、セリシンの含有率で絹は表情を大きく変えてくれます。昔から職人はセリシンを残すことで絹糸に表情を持たせてきました。100%セリシンを除去する精練を本練りといいますが、ほかに七分練り、半練り、三分練りなどなどなど。セリシンを残すことでシャリ感のある絹糸になってくれるのです。
 また、染には関係ありませんがセリシンは化粧品の材料としても非常に有益です。抗酸化効果や保湿効果をあげた化粧品にセリシンを原料にしているものも多いのではないでしょうか。閑話休題。
さて、話を染めに戻しますが、一次不純物を取り除く過程で差が出てしまったり、そもそも天然素材ですから素材そのものが均質でなかったりという理由からもロット段は発生してしまいます。
 ……化学繊維が発達したのはそういう理由もあったのかもしれません。安く均質な製品を望まれたとき、化学繊維は天然繊維よりもすぐれた面があるのは確かです。が、セリシンのように混ざりものがあることで糸が生きる場合もあります。次回はそういう話をしたいと思います。
 ……ちょっとまとまりのない話になってしまいましたが、今日はここまでにしたいと思います。

それでは、皆さん次のブログでお会いしましょう。失礼しました。

遠藤染工場 Colour Lab

2009年2月2日月曜日

東京国際キルトフェスティバルのご来店の御礼と新商品「チュール」のご案内

ブログをご覧の皆様、こんばんは。A.F.E商品企画室からのお知らせです。
 まずは1月24日に閉幕しました東京国際キルトフェスティバル、去年を上回るたくさんの方にお越しいただきました。多くの方からご意見をいただき、A.F.E一同、篤く御礼申し上げます。一週間と少しが過ぎましたが、東京から送った荷物もようやく整理が終わり、A.F.Eも通常運営再開です。商品企画室からはしばらく新商品のご案内が続くと思います。今日はそのひとつめ。新色チュール(35色)のご案内ですー。
 素材自体はこれまでの「手染めぼかしチュール」と同じものを使用しています。ご存じのとおり、これまでは単色染めのチュールはなかったのですが、「単色のものもあったら便利」という声をたくさんいただきましたことで生産にGoサインが出た商品です。皆様の作品の彩りになれば本当に幸いです。

今日は短いですがここまでに。
それでは皆様、次のブログで。失礼いたしました。